独自の定点観測から生み出された写真は、多くのひとの心を魅了し離さない。
2016年弊社主催のフォトコンテストで審査員特別賞を受賞。翌年3月にはSONYイメージングギャラリー銀座で個展を行い活躍の幅をさらに広げはじめた羽田典子。
初めての展示から共に作品を創り、パートナーとして動向を追い続けてきたセントラルプリントファクトリーが、作品を仕上げるうえで大切にしている「プリント」に対する思いと、ハーネミューレ紙に辿り着いた理由を伺った。
インタビュー・テキスト・撮影 : 白石哲也
——– プリントに興味を持ったきっかけを教えてください。
羽田 : 3年前でしたよね。初めて白石さんとお会いした時。プリントを一度もした事がない状態で初めての展示を迎えました。 セントラルさんにお世話になったことでプリントすることの大切さをすごく知りました。紙の違いを覚えたのもそれが初めてで、 写真展となると紙自体にコーティングをかけるかどうか、というお話も全部セントラルで知りました。
テストプリント含めて、何回かだしていくうちに実感を覚えていった感じですね。全く何もないところからのスタートで、
当時使っていたカメラもプリントに耐えうる機材じゃなかったんです。
小さな画素数で撮ったものを出力するのが、そして大きくするのがいかに難しいか知りました。
私の場合はそこからプリントの楽しさ難しさを知りました。
興味の薄かった機材のことも、勉強しないといけないって感じるきっかけとなったのはプリントをしてからです。
だからプリントは大事!
プリントにあわせて大きな画素数のカメラも購入しました。
機材が好きっていうよりも、出力するためにこういうカメラ、こういうスペックを選ぼう、とか
プリントを見ていただくなら、自分がその時思った事、景色をそのまま見てもらいたいって思うんです。
そうなると家でテストプリントもしたくなるし、実際プリンターを買うとレタッチも覚えていく。
とにかくプリントが綺麗になるためにどうすれば良いかを模索しました。皆が基本情報としてご存知のことも全く知らなかったんですね。私の場合は皆と逆なんです。私の場合はプリントをして必要なものを買い揃えていった感じですね。
ひとに見ていただける第一歩がプリントだと思っていて、データのみの鑑賞も楽しいけど、
作品や自分のこうしたいという気持ちはやっぱり作品だからこそ伝わると思うんです。
プリントをしていれば何かのきっかけの時、ポートフォリオとしても使える。そうするとそこから広がる。
——– セントラルフォトコンテストを応募した理由を聞かせてください。
羽田 : コンテスト応募のきっかけはプリントが審査対象だったからなんです。コンテストへの応募は初めてでしたが、作品として客観的なジャッジをいただくのに、データではなくプリントで見ていただきたかったんです。
同時期に応募したSONYの個展公募も最終審査はプリントでした。セントラルフォトコンテストはプリントで表現の仕方をトータルで見ていただける場だったから応募しました。
コンテストをきっかけにこれからやっていく事をますます進化させたいし、結果がダメならまた違うやり方をやれる。いかに自分が思い描いているイメージをプリントで出せるかも作品作りのひとつだと思います。
だから紙にこだわる。というより、紙が気になる!
SONYイメージングギャラリー銀座にて 個展「脈をつかむ」 写真提供 : 羽田典子
——– そんな中プリントにハーネミューレ紙を選んだ理由はあるのですか?
羽田 : 最初は厚手の紙が欲しかったという理由がありました。
ハーネミューレ紙の事はセントラルさんの店頭で知りました。
種類がたくさんあって、角度を変えた時に見え方が違うんです。出力見本を見て、出してみたいって思った。
セントラルでは一枚から出せる事を知って、それで試してみようと。
ですがお値段が高価なのも知って、ここぞという時、何かが決まった時に出したいという思いがありました。
私は暗部の階調を中心にした写真が多いのですが、出力をすると黒だけじゃなところも黒く潰れてしまうことがあったんです。
ハーネミューレ紙は階調がとても広く表現される。動物の毛並みがより引き立ち深みが増す。
それをおすすめしていただいたのがセントラルさんなんです。それから作品に合わせた紙の種類を選ぶ楽しさも教えていただきました。セントラルさんとハーネミューレ紙に出会ってイメージ通りに作品を作る事ができたんです。
——– 家でのプリントとは違う?
羽田 : 家で納得のいく色調が出る事もありましたが、大きく違うのが、理想により近づける為に店頭でお話をする中で決めていける事です。色の統一感だったり、あと何より信頼がある。自分の作品をトータルで揃えられるという事が大きいです。大きいサイズのプリントも出せますしね!
——– 黒を基調とした作品が多いのですが、その理由をお聞かせください。
羽田 : 真夏の雨の日に動物園にいったんです。暗いところで雨が降っていて、でも 夏だから光が差し込んで、当時の画素数の低いカメラでも撮れたんですね。
その時に、自然に 暗い中にポッと浮き出る光がうまれたんです。今でいう光を見ることに繋がるんですが
真夏の雨の日だから夕立のように、雨が上がった瞬間に光がさして。。
その時にたまたま撮ったのがフラミンゴの写真です。
そのあとはカメラの操作を覚えてイメージに近づけるようになりました。最初は偶然です。余計な情報がなくなって、
自分が目の当たりにした綺麗な景色がストレートにそのまま再現されたんです。それにびっくりしました。
暗いんだけど一瞬明るい場所が好きなんです。今日もまさにそんな場所に座らせていただきました。笑
——– 羽田さんが生み出す作品は、どうやって撮っているのか知りたいです!
羽田 : 興味を持ってもらえる事がうれしいです。
生き物ってルーティーンがあって、まずはずっとそれを観察する。
ある程度こんな感じかなって掴めた時に初めてカメラを構えるんです。
三脚を使って構えていないから、目では見てるけど撮り逃しもたくさんあるんですけど。
モデルとして決めた場合は動きの面白さよりも表情をよく見ています。
——–「アジアゾウ」は動きが象徴とされる作品ですが
羽田 : あの写真には意味があって、すごいお年寄りの象だったんです。ちょうど井の頭公園のはな子さんが亡くなった時期で、高齢の象ってどうしてるんだろうという興味があり、とある動物園に行きました。
ちょうど高齢化にともなって象の部屋を改装してたんです。背景がトタンで、その対比に非常にグッとくるものがあったのを覚えています。皮膚感も若い象とは違うし、目もみえているのかもわからない。
朝からずっと観察をしていて、お昼になって遊び始めたんです。ご飯を食べて元気になったのか、
力をふりしぼっている瞬間があって。
大切な瞬間だからこそ、連写では撮らないんです。仕事ではダメだと思うけど、一回ずつを大切に切り取りたいんです。
元気な象を見て嬉しい で帰ってきていた今までと違い、 写真をやりはじめてからそれを皆に伝えて嬉しい という気持ちが芽生えたんです。
そこから収めたものをもっとたくさんの人に見てもらうにはどうしたらいいか。それはやっぱりプリントに繋がるんですよね。
そしてこの写真は象の雄大さが引き立つから絶対大きくプリントしたかったんです!
最終的に大きな作品として出力、展示をしてもらえるフォトコンテストに、だから強い関心や興味をもちやりたくなったんです。
2016年セントラルフォトコンテスト 審査員特別賞「アジアゾウ」
——– 写真を撮るなかで大切にしていることは何ですか?
羽田 : 撮るときは、これをなぜ撮っているかということを大切にしています。自分の中でのルールだったり、規則性だったり、その時のエピソードがあります。 撮るときにはそうです。ですが、それは自分の中でのことで、説明ぽくしたくないので、作品にはタイトルをつけないか、付けるものには最小限なものにしています。
例えば、定点観測をしていて、その最も美しい生の瞬間をとらえたものには、 日付と時間と天気をタイトルにしました。 作品とそれを見れば、見ていただいた方が、なるほどとなるのか否か。今後変わるかもしれないけれど、今はそうです。
セントラルのフォトコンテストですごいと思った事があったんです。審査員の方の総評を読ませていただいた時、それに気づかれた方々がいらっしゃったんです。私はそれだけで本望でした。順位や賞も光栄なのですが、総評が本当に嬉しかった。
すごい!気づいたんだっ!って。審査員の方々は、やはり凄いなと思いました。そして、ごまかせないです。伝わる方には伝わる反面、私が嘘っぱちな事をはじめてしまった時は、もうきっとそれはそういうものになってしまうんだなって思った時、やりがいが出てきました。
違うかもしれないけど、音楽に例えるならライブって他と違うじゃないですか。パワーというか圧力っていうか
CDとは違うところがある。 写真家にとってのライブは写真展なんです。自分の人となりまで見透かされる。
っていうか見透かされたい。CDもデータももちろん大事だと思うんです。でもライブって蓄積した何かだと思うんです。普段が見えるっていうか。
そしてお客さんの期待度がきっとある。写真展も期待度があって来ていただく訳だから、そこでプリントや額装が合っていないとお客様の期待も裏切ってしまう事になります。 生の声が聞こえることやダイレクトな反応が見えることが本当に嬉しいんです。音楽やってるわけではないのでわからないけど、音楽をされている白石さん、いかがですか?
いいことも悪いこともふまえてのライブなんですよね。それがまた楽しいし、やりがいになります。
羽田 :ですね!やりがい ですよね!
柔らかな笑顔からは想像がつかない、時折見せる芯のある力強さが印象的であった。
PM3時。窓際に座る彼女を後光のように光が照らし、瞬間私もシャッターを切った——
光と影が対比ではなく共存する羽田典子のこの世界感に、これほどまでに期待度を高めている人間は私たちだけではないはずだ。
セントラルフォトコンテストは今回で4回目。今年も胸高鳴る数多くの作品に出逢える事が楽しみでならない。
ハーネミューレプリント特設サイト「PROPHOTO PRINT」
羽田典子|Noriko Hada
愛知県生まれ。
広告制作会社に勤務後、独学で写真を撮り始める。
2017年3月に開催した写真展「脈をつかむ」(ソニーイメージングギャラリー銀座)でフォトグラファーとして始動。
羽田典子ホームページ
http://norikohada.com